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化粧品成分ロドデノールで白斑の副作用が出たのはなぜか

世間を騒がせた美白成分で副作用の原因解明か.

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 肌がまだらに白くなる「白斑」を起こし自主回収された某社化粧品の美白成分である「ロドデノール」は、細胞の中で別の物質に変化し細胞毒性を示すことが、培養皮膚細胞を使った実験で判明しました。

 西暦2013年に、某社の美白化粧品で白斑の副作用が出ると報道されました。それから約1年が経ちました。培養細胞を使った実験であり、原因の全容が解明されたというわけではないものの、どうやらひとくぎりの研究成果が論文*1にまとめられたようです。

 

  • ロドデノールは細胞死を起こす別の物質に変化する

 ヒトの皮膚は人種によって色合いが異なるものの、一般的にこれは皮膚中に存在するメラニン色素に負うところが大きいとされます。日本では「色の白いは七難隠す」のことわざにあるとおり、古くから肌が白くシミやソバカスのない女性が好まれてきました。近年でも白くくすみのない肌に多くの人が憧れ、「美白」の言葉が世間に広まってから、すでに20年以上が経っています。

 しみの元にもなるメラニン色素は、細胞の中で作られます。このとき、メラニン生成を仲立ちする酵素チロシナーゼです。ロドデノールは、この酵素の機能を抑制します。新たに判明したところによると、ロドデノールは体内でメチルクロマンジノンと呼ばれる別の物質に変化します。このメチルクロマンジノンが、活性酸素を除去する仕組みを妨げ、細胞毒性を示すとのことです。

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 白斑ができる副作用は細胞死によるものであり、美白作用の効き過ぎというわけではありませんでした。

 

  • 扇情的な言葉にまぎらわされることなく

 もともとロドデノールは植物にも含まれている成分*2,*3とされます。

 もちろん天然物だから安心というわけではありません。化粧品として販売するには厚生労働省の定める基準*4を満たしていなければなりません。当然、安全に使えるかよく検討された上で市場に出回ります。

 この世に完璧な基準は存在しません。培養細胞や実験動物ではなく実際に生活する人間で、小規模ではなく大規模で試してみないと分からない副作用もあります。ここで大切なことは、副作用の可能性が報告されたとき、迅速に対応することです。危険な兆候を見逃していれば、企業として責任が問われます。何千人に重篤な副作用が出てからでは遅いでしょう。ロドデノールを含有する化粧品が自主回収され、白斑問題が大々的に報道されたのは2013年7月。しかし、2011年10月には購入者から、2012年2月には社員から、2012年9月には医師から問い合わせがあったといいます。

 「全容解明と治療法確立に向けて最大限努力したい」と扇情的*5なコメントを出すだけではなく、企業としてやるべきことをやってほしいと思います。

 

  • アンケート

  • 参考文献・ウェブサイト

*1:"Tyrosinase-catalyzed oxidation of rhododendrol produces 2-methylchromane-6,7-dione, the putative ultimate toxic metabolite: implications for melanocyte toxicity." Shosuke Ito et al. Pigment Cell Melanoma Res. 2014
http://dx.doi.org/10.1111/pcmr.12275

*2:"身のまわりの分子 ロドデノール" ケムステ 様

http://www.chem-station.com/molecule/archives/2013/08/rhododendrol/

*3:"美白と接着剤とドーパミン" 有機化学美術館 様

http://blog.livedoor.jp/route408/archives/52117562.html

*4:厚生労働省ウェブページ

http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/keshouhin/

*5:"ダメな科学を見分けるための大まかな指針ポスター" うさうさメモ 様

http://d.hatena.ne.jp/usausa1975/20140624/