バンショ和ゲゴヨウ

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シベリアの光るミミズはちょっとカワリモノだった

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 光るミミズをご存知ですか。テレビニュースで取り上げられて見たことがあるという人もいるかもしれません。暗い土の中に住んでいるはずのミミズが光るなんて不思議だと感じる人が多いのでしょう。

 光るミミズにも種類があります。2014年の研究成果によれば、どうやら進化的な起源は単一ではなく、光る仕組みは複数あるようです。シベリアの光るミミズは、他の光るミミズとは違いました。

 

 

  • ミミズが光ることは専門家の間ですでに常識だった

 ヒトは自力で光りません。ホタルは自力で光ります。鏡やハゲ頭のように光を照り返すのではなく、生きものが自分で光る現象を、生物発光と呼びます。生物発光は、多くの研究者を魅了してきた、知的好奇心をくすぐる不思議な生命現象です。ホタルだけでなく、多くの生命で、生物発光が観察されています。ミミズでも生物発光する種類が複数、確認されています。ミミズでも

 生物発光は、ルシフェリンと呼ばれる小分子が、ルシフェラーゼと呼ばれる酵素で分解されて起こる現象です。ミミズのルシフェリンは、30年以上前*1に単離され、すでに構造決定されていました。それ以来、ミミズの生物発光はみな同じ仕組みで起こるものだと考えられていました。

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  • シベリアの光るミミズ

 ロシアのペツシュコフ氏らは、フリデリシア属ミミズの光り方は他と違うことに気づきました。調べてみると、生物発光が知られる他のミミズでは酵素反応に少量の過酸化水素を添加する必要であるにも関わらず、フリデリシア属ミミズでは過酸化水素が不要でした*2。通常、過酸化水素は酸化剤として作用します。

 フリデリシア属ミミズのルシフェリンは、今まで発見されたルシフェリンとは違う新物質なのだろうと、ペツシュコフ氏らは考えました。そこで、フリデリシア属ミミズのルシフェリンを単離し、化学構造を解き明かしたいと思いました。しかし、研究は難航します。構造決定には大量のミミズが必要だというのです。夜中に発光を確認しながら土から手で1匹ずつ採取すると、ひと夏で30000匹に相当する50グラム弱が限度だったと言います。これでは足りませんでした*3

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 ミミズルシフェリンは2種類あるのか?

  • ついにもうひとつのルシフェリンで正体が解き明かされる

 ペツシュコフ氏らは、ロシアにあるクラスノヤルスク市の周囲、半径50キロメートルにわたる地帯でミミズを採取し、60000匹に相当する90グラムを得ました。ここからルシフェリンを精製し、精密機器で分析して化学構造を決めました。そして、実際に同じ構造の分子を化学合成し、推定されたルシフェリンの構造が正しいことを確認しました*4

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 化学構造が決定され、長年の研究がついに報われました。研究の過程で、似たかたちの分子もいくつか見つけられており、これらがミミズの体内でルシフェリンの原料になっていると考えられます*5。こうして、光の化学が織りなす魅惑の生命現象に、謎解き達成の1ページがさらに付け加えられました。

 

字数; 1000字

文章; バンショ和ゲゴヨウ

 

  • アンケート

  • 参考文献・参考ウェブサイト

*1:"Structural identification and synthesis of luciferin from the bioluminescent earthworm, Diplocardia longa." Hiroko Ohtsuka et al. Biochemistry 1976

http://dx.doi.org/10.1021/bi00650a009

*2:"Purification and partial spectral characterization of a novel luciferin from the luminous enchytraeid Fridericia heliota." Petushkov VN et al. J. Photochem. Photobiol. B 2007

http://dx.doi.org/10.1016/j.jphotobiol.2007.03.006

*3:"LC–MS and microscale NMR analysis of luciferin-related compounds from the bioluminescent earthworm Fridericia heliota." Marques SM et al. J. Photochem. Photobiol. B 2011

http://dx.doi.org/10.1016/j.jphotobiol.2010.12.006 

*4:"A novel type of luciferin from the Siberian luminous earthworm Fridericia heliota: Structure elucidation by spectral studies and total synthesis." Petushkov VN et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2014

http://dx.doi.org/10.1002/anie.201400529

*5:"CompX, a luciferin-related tyrosine derivative from the bioluminescent earthworm Fridericia heliota. Structure elucidation and total synthesis." Petushkov VN et al. Tetrahedron Lett. 2014

http://dx.doi.org/10.1016/j.tetlet.2013.11.064