双子素数ピンチ!7千万の境界が破られる
差が2であるような連続した素数の組を、双子素数と呼びます。この双子素数が無数に存在するかは、100年以上の長きにわたり、数学者の頭を悩ませてきました。双子素数が無数にあるとの予想に対して、証明つきの結論は、まだ与えられていません。最近、問題解決に向けて糸口となりそうな発見があり、注目を集めました。
【数学】【素数】連続した素数の差が7千万未満の組み合わせは無数に存在することが証明された。Bounded gaps between primes. http://t.co/9Ob480egx2
— 注目論文ツイート (@HotPaperTweet) October 12, 2013
2013年5月、アメリカ合衆国ニューハンプシャー大学のZhang氏の手により、双子素数のように差が2であるような組み合わせが無数にあるかは分からないけれども、差が70000000未満ならば、と証明が公表されました*1。これは双子素数問題の解決へ向けて糸口につながりそうだと、ネイチャーニュース*2を含め、国内外で話題になりました*3,*4 ,*5,*6,*7。
注目の論文はAnnals of Mathematics誌に掲載予定のこちら*1です。連続した素数の差が70000000未満の組み合わせは無数にあることを証明しています。
原著論文
"Bounded gaps between primes" Zhang Y. Annals of Mathematics 2014
-
本題へ入る前に:素数は無数に存在する
素数とは何でしょう。
回答の一例に「素数は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字」という、超弩級に有名な言い回しがあります*8。この説明でも、だいたいあってます、だいたい。
素数を数えて落ちつくんだ
この孤独な数は、小さい順に並べると、はじめは2、次は3、続きは5,7,11,13,17,19……と、えんえん存在します。無数に、限りなく、終わりはありません。素数が無数に存在することは、高校レベルの数学で証明できます。ちょっとトリッキーな方法を使いますけどね。証明の仕方はウィキペディアにもまとめられています*9。とりあえず、気になる方はそちらを見てもらうとして、本題に戻り次へ行きましょう。
一般の素数は無数に存在します。では、トクベツな素数も無数に存在するのでしょうか。
-
知りたいことは何か:双子素数は無数に存在するか
素数を小さい順に並べたときどういう分布をしているのか、想像してみてください。2以外の素数は奇数です。そのため、2よりも大きな、大多数の素数を考えると、素数の差は、2とか4とか6とか偶数であって、1とか3とか5とか奇数にはなりません。2を除く素数の集合を考えたとき、連続した素数の差は、最小が2だということになります。
最小が2。トクベツな情報です。
この差が2になる素数の組は、トクベツなので双子素数と呼ばれています。かわいいでしょ?
双子素数の組は、「3と5」、「5と7」、「11と13」、「17と19」、「29と31」、「41と43」、「59と61」、「101と103」……と、続きます。このまま双子素数が無数に存在するかは、まだ誰にも分かりません。
多くの数学者は、無数に存在すると予想しています。しかし、予想が真実であるとは、誰も証明できていません。こんな単純な性質であるにも関わらず、です。
-
新しく分かったことは何か:連続した素数の差が7千万未満の組み合わせは無数に存在する
双子素数予想の解決に向けて、アプローチは大きく2種類あります。ひとつは「素数pがあったときそれよりも2だけ大きな数p+2が素数になる条件は何だろうか」というものです。もうひとつは「n番目の素数p_nについて連続した素数の差p_n+1-p_nはどのくらいの大きさだろうか」というものです。
新しく分かった「連続した素数の差が70000000未満の組み合わせは無数に存在する」という発見*1は、後者の発想です。今まで、無数に組み合わせが存在する連続した素数の差は有限*10,*11だろうとは考えられていました。しかし、実際に数字が出たのは今回が初めてでした。証明された内容*1を理解するために、具体的に考えてみましょう。
連続した素数の差は、4であることもあります。例えば「7と11」のようにです。
連続した素数の差は、6であることもあります。例えば「23と29」のようにです。
連続した素数の差は、70000000であることもあります。例を探すのが面倒なので暇な人は探してください。
新しい発見は「連続した素数の差が2とか4とか6とか……69999998とか70000000とかになる組み合わせは無数にある」というものです。連続した素数の差が2になる組み合わせが無数にあるかどうかは分かりません。しかし、2または4または6または……70000000となる連続した素数の組み合わせというふうに、可能性をすべて並列の接続詞でつないでやると、これは無数にあるというのです*12。
この証明は、権威ある数学雑誌に提出されました。専門家によって査読され、主張が正しいかどうか、今のところチェック中のようです。それなりに、時間がかかるでしょう。論文オンライン公開の場であるアーカイブ(arXiv)にも原稿が公開されていました。そのため、誰でも閲覧することができました。証明された結論は理解できるものの、肝心な証明の過程はちゃんと読まないと分からなそうです。
-
これから進展しそうなことは何か:7千万が5千に、そして。
この70000000という数字は、単なる突破口です。実際、1年も経たずして、世界中の数学者の協力*13により、この幅は縮まりつつあります*14。
【経緯まとめ】
隣り合う素数の差
2013. 5. 13. by Zhang; 70000000
2013. 7. 27. by Terence Tao & Poly Math project; 4680
2013. 11. 19. by James Maynard; 600
2013. 11. 19. by James Maynard; 12 (Elliott-Halberstam 予想を仮定)
2014. 1. 29. by Pace Nielsen & Poly Math project; 6 (Generalized Elliott-Halberstam 予想を仮定)
今後の進展に、まだまだ期待が持てそうです。
文:バンショ和ゲゴヨウ
字数:2200字
-
アンケート
-
参考文献・ウェブサイト
*1:"Bounded gaps between primes." Zhang Y. Ann. Math. 2013
http://dx.doi.org/10.4007/annals.2014.179.3.7
*2:"First proof that infinitely many prime numbers come in pairs." Nature News.
http://www.nature.com/news/first-proof-that-infinitely-many-prime-numbers-come-in-pairs-1.12989
*3:"「双子素数予想」解決に光 米の数学者が論文" 朝日新聞
http://www.asahi.com/tech_science/update/0521/TKY201305210004.html
*4:"双子素数予想に進展があった" hiroyukikojimaの日記 様
http://d.hatena.ne.jp/hiroyukikojima/20130531/1370007780
http://sugakujuku.blog109.fc2.com/blog-date-20130603.html
*6:"無名の数学者だったジャンさん" びっくり数学島 様
http://sugakujuku.blog109.fc2.com/blog-entry-62.html
*7:"Unheralded mathematician bridges the prime gap." Quanta Magazine
https://www.simonsfoundation.org/quanta/20130519-unheralded-mathematician-bridges-the-prime-gap/
http://www.amazon.co.jp/dp/4088731034/
*10:"Primes in tuples I." Goldston et al. Ann. Math. 2009
http://dx.doi.org/10.4007/annals.2009.170.819
*11:"Primes in tuples II." Goldston et al. Acta. Math. 2010
http://dx.doi.org/10.1007/s11511-010-0044-9
*12:つまりlim_{n->無限大} inf(pn+1-pn)<70000000ということ。ちなみにlim_{n->無限大} sup(pn+1-pn)=無限大なのでお間違えなく。
*13:"Bounded gaps between primes" Poly Math project
*14:"Sudden Progress on Prime Number Problem Has Mathematicians Buzzing." WIRED